愛するということ

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「春人」  背後から呼ばれ、春人が振り向く。そこには佐倉が立っていた。 「悪い。起こしたか」  春人が問うも、佐倉は返事をしない。代わりに佐倉は春人のほうへ歩み寄り、手すりに両手をつき、春人の行く手を阻んだ。退路を断たれた春人はたじろぐ。彼は何を考えているのか。 「好きだ、春人」  佐倉が突然そんなことを言い出したため、春人は少なからず驚いた。聞き間違いだろうか。そう考えたが、佐倉はもう一度、「好きだ」とはっきりと言った。春人は溜め息を吐く。 「おまえ、酔っているのか」 「酔ってなんかいない」  佐倉の言葉通り、彼の滑舌はしっかりしていた。酔っているわけではなさそうだ。冗談のようにも聞こえなかった。 「佐倉」春人は佐倉に言い聞かせるように言う。「僕たちは親友だ。違うか?」  すると佐倉は項垂れ、口を閉ざしてしまった。春人は再び溜め息を吐き、佐倉の肩に手を置く。 「部屋に戻ろう。そろそろ寝ないと、明日に響く」  なだめるように言うと、佐倉は中に戻っていった。春人はもう一度だけ月を見上げた後、佐倉に続いて部屋の中に入った。  佐倉はすぐベッドに入った。春人に背を向けているあたり、気まずいのだろう。それを察した春人も、同じように佐倉に背を向けた。その日も、その次の日も、佐倉はそれ以上そのことに関しては何も言ってこなかった。
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