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京都から帰った日の二日後、春人は大学の友人である楢崎一哉と会う約束をしていた。一緒に課題のレポートをやろうという誘いで、まだレポートを片付けていなかった春人は二つ返事で了承した。
楢崎は午後一時過ぎ、自身のノートパソコンに加え、酒とつまみを持って春人のアパートにやって来た。本当にレポートをやる気があるのかと春人は呆れつつも、二人で缶ビールを開けてノートパソコンと向き合った。
春人のレポートが半分ほど進んだところで、休憩にしようと楢崎が言い出した。彼は後ろに倒れ込み、唸り声を上げる。
「俺、もう限界」
そう言った楢崎のパソコンを春人が横から覗く。どうやらレポートはあまり進んでいないようだった。
「まだ三割もいっていないじゃないか」
「四千字なんて、そんなに一気に書けるわけがないだろう」
楢崎が溜め息交じりに言う。「それもそうだ」と春人は呟いて息を吐き、凝った肩を回した。
それから春人はふと思い立ち、「なあ」と楢崎に声を掛けた。
「もし自分が親友だと思っていたやつに告白されたら、おまえ、どうする」
何気ないふうを装って尋ねたが、楢崎は春人が思っていたよりも聡かったらしい。彼は起き上るや否やにやにやと笑い、肘で春人をつついた。
「春人はどうしたんだ」
質問を質問で返され、春人は動揺した。それから春人は逡巡した後、事実を口にした。
「適当に受け流した。僕たちは親友だろ、って言い聞かせて」
「おまえも酷なことをするな」
楢崎がくつくつと笑う。そんなに酷だったのか、と春人は今になって申し訳なく思えてきた。そうかと言って、佐倉の告白を受け入れるわけにはいかない。
「それじゃあ、どうするのが正解だったんだ」
「さあな。俺にもわからない。第一、告白を断るときの正解なんてものは、どこにもないのかも知れないな」
そう言う楢崎の目はどこか遠くを見ているようだった。そんな彼の挙動が些か不思議に思えたが、きっと自分の気のせいだろうと春人は考え、そのことについて言及することはしなかった。
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