愛するということ

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 *****  アルバイトを終えて待ち合わせ場所に行くと、そこには先程と同じ格好をした智子がいた。ホテルに着き、部屋に入ると、智子は瞬く間に服を脱ぎ捨てた。春人もそれに倣ってからベッドに乗ると、智子は春人の上に体を乗せた。豊満な乳房が眼前に現れたが、興奮はしなかった。そうして春人は自身の性癖に改めて気付かされた。  春人は北見の娘を抱いた。女を抱くのはずいぶんと久しぶりだった。  行為が終わると、智子はさっさとシャワールームに消えた。残された春人はベッドの上に放ってあった服を身に着け、ベッドの縁に座る。無意識のうちに俯いてしまっていた春人は、智子が部屋に戻ってきたところで顔を上げ、服を着た智子のほうへ顔を向けた。 「愛のないセックスなんかして楽しいんですか」  すると智子は薄笑いを浮かべ、「あなたは楽しくなかったみたいね」と言った。 「じゃあ訊くけど。あなた、父さんとのセックスには愛があるとでも思っているの」  その言葉に春人は狼狽えた。自分と北見はただのセックスフレンドだ。そこに愛などあるはずがない。しかし春人はいつからか、そこに愛があると錯覚していた。そう考えて、ああ錯覚だったのか、と春人は意識の中のどこか遠い場所で思った。  自分は何のために北見とセックスをしているのか。自分が依存していたのは北見ではなく、北見とのセックスに対してだったのか。春人にはわからなかった。 「僕は北見さんが好きです」  それは半ば自身に言い聞かせるような言葉だった。しばしの間の後、「そう」と智子は興味なさそうに呟いた。 「それならいいわ」  そう言うや否や智子は入口近くのソファの上に置いてあった自身のバッグを掴み、自動精算機に金を突っ込んで部屋を出ていこうとする。春人は慌てて声を掛けた。 「帰るんですか」 「ええ。用は済んだから」 「終電、もうないでしょう。ちょっと待ってください」  春人はソファの上のバックパックから財布を取り出そうとする。智子はそれを片手で制した。 「タクシー代? いらないわ。駅前のマンションで暮らしている知り合いのところに泊めてもらうから」  そう言い残し、智子は部屋を出ていった。精算を済ませてしまった以上、春人も部屋を出なくてはならない。春人はホテルを出て駅前に向かい、そこでタクシーを拾ってアパートに帰った。
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