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結局智子とはそれきりだった。あれ以来アルバイト先に来ることもなければ、連絡をしてくることもなかった。春人は安堵したが、彼女が何をしたかったのか、その真相はわからず終いだった。
それから三日後の夜、春人と北見は平生通り春人のアパートで会っていた。誘ったのは北見で、彼は春人に話があるのだと言った。
二人は並んでベッドに腰掛けた。「実は」と切り出し、北見は言いづらそうに、九月から異動になるのだと告白した。
「異動ですか」
「ああ。宮城のほうにな」
宮城。春人は口の中で繰り返す。それは長野からは程遠い場所だった。
北見は憂いを帯びた表情で項垂れている。冗談を言っているわけではなさそうだった。突然の告白に、春人は言葉を失った。
不意に三日前の出来事が思い出される。もしやと思った春人は、問わずにはいられなかった。
「僕との関係が誰かにばれたんですか」
「そういうわけじゃないさ」
北見は苦笑し、春人の頭を乱雑に撫でた。口では関係ないと言ったが、実際のところどうなのかは春人には知る由もなかった。
「引っ越しの準備もあるから、これからは忙しくなる。だから、おまえと会うのも今日が最後だ」
そう告げられ、春人は何も言えなかった。今日が最後。そう言われても、実感は湧いてこなかった。
その日春人は激しく北見を求めたが、北見のほうは今までにないほど優しく春人を抱いた。
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