フレンド

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 八月も残すところあと二日となった日の夜、春人は一人、長野駅前のバーで酒をあおっていた。  一人で来ている者もいれば、家族や友人、また恋人と来ている者もいた。店内ではしっとりとしたジャズが流れている。元来このような場所にあまり馴染みがない春人は、新鮮な音楽と新鮮な味の酒に身を委ねていた。  アルコールが回ってきたとき、不意に北見と酒を飲んだときの記憶が蘇ってきた。彼は今頃何をしているだろうか、引っ越しの準備は終わったのだろうか、などという考えが浮かんでは、泡のように消えていった。  九月に入ったら北見に連絡をしてみようか。そう考えて、春人は頭を振った。自分たちはただのセックスフレンドだ。連絡を取ったところで、直接会えないのでは意味がない。そうして春人は、自分たちの関係はもう終わったのだ、北見もきっとそれを望んでいるのだと自身に言い聞かせた。
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