フレンド

3/13
25人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
 カウンター席でしばらく飲んでいると、上背のある男が隣に腰を下ろした。他に席が空いているのに何故わざわざ隣に来たのかと春人が訝しんでいると、男は突然「君、飲みすぎじゃない?」と言い出した。それはうっとりと酔いそうになるほどの美声だった。  男は栗色の髪をしていた。グレーの瞳やくっきりとした目鼻立ちからして、外国人かハーフのように見えた。  春人は男を一瞥した後、自身の持つグラスの中へ視線を戻す。 「やけ酒って、わかるだろう」  実際それはやけ酒に近かった。北見との関係が終わったことに対する虚しさを埋めるために、春人は何杯も酒を飲んだ。飲んで虚しさが埋まったのかはわからないが、少しは気が楽になったように思えた。そのときの春人は酩酊状態に近かった。  満足した春人がカウンターで会計を済ませると、それを隣で見ていた男が春人の手首を掴んだ。今度は何だ、と春人が男に目を向ける。 「君、家は?」  唐突に尋ねられ、酔いのせいで上手い嘘が思いつかなかった春人は、本郷駅の近くだと正直に答えた。すると男は、「本郷ね」と言って頷いた。 「わかった。送っていくよ」  それは意外な申し出だった。しかし、春人はすかさず首を横に振る。 「いい。一人で帰れる」 「無茶だよ」  男は苦笑した。何がおかしいんだと叫びそうになったが、何とか堪えて溜め息を吐いた。  男は何を言っても聞かないといったふうで、春人の手首を掴んだまま離さない。春人は逡巡した結果、彼の言葉に甘んじることにした。  男が会計を済ませるのを待ち、二人一緒に店を出た。肩を借り、駅に向かって歩き出す。本郷駅で電車を降りて、「そこを右」「次は左」などと言ってアパートまで案内した。鍵を開けて部屋の中に入り、ベッドに寝かされたところで、春人の意識は途絶えた。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!