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翌朝、ベッドで裸になって眠っていた春人は、昨夜あれから何があったのか、そのすべてを察した。春人は二日酔いで痛む頭を押さえつつ、上体を起こす。すると、キッチンのある廊下から声が掛かった。
「起きたかい?」
それは昨夜の男の声だった。「ああ」と返事をすると、「おはよう」と明るい声が飛んできた。
少しして、男は盆に二人分の目玉焼きと味噌汁、白米、そして麦茶を乗せて部屋に入ってきた。食事を用意してくれたことに対する感謝の気持ちは湧いてこなかったが、同様に、勝手にキッチンと食材を使われたことに対する怒りも湧いてはこなかった。
「おはよう」
もう一度、男が笑顔でそう挨拶をする。春人は仕方なく、「おはよう」と言葉を返した。
春人は床に捨ててあった服を手早く身に着け、年中出しっぱなしになっているこたつの前に座った。それから二人は無言で朝食を口に運び始めた。
先に痺れを切らしたのは春人だった。
「あんた、名前は」
「レオ」
「歳は?」
「二十四」
レオは春人の問いに淡々と答えていった。それから彼は自分も本郷駅近くのマンションに住んでいるのだと言った。だったら帰ればよかったのに、と春人は口の中で愚痴を漏らす。
「そういう君は?」
尋ねられ、春人はそっけなく、「木村春人、二十歳」と答えた。レオはいい名前だと言って褒めてくれたが、春人は世辞だろうと決めつけて礼は言わなかった。
「ずいぶん日本語が上手いけど、外国人なのか」
「ハーフだよ。母がロシア人でね。生まれも育ちも日本さ」
味噌汁をすすりながらレオが言う。その所作は上品だった。食べているのが目玉焼きと味噌汁でなければ絵になっただろうに、と春人は心の中で呟いた。
食事を終えると、レオは律儀に二人分の皿を洗い、「それじゃあ」と言って帰っていった。春人は息を吐き、シャワーを浴びるために浴室へと向かった。
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