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そのとき、玄関のチャイムが鳴った。春人は億劫ながら立ち上がり、玄関へと向かう。扉を開けると、そこには意外にも佐倉の姿があった。
「どうしてここがわかったんだ」
生憎彼にアパートの場所を教えた覚えはない。おおかた誰かに聞いたのだろうとは思ったが、佐倉は答えなかった。
佐倉は玄関に入り、後ろ手で扉を閉める。それはあの強盗犯の仕草とどことなく似ていた。
直後、佐倉が掴みかかってきた。バランスを崩した春人が音を立てて床に倒れ込む。佐倉は春人の上に覆いかぶさるような体勢で膝と手をついた。押し倒されたのだと気付いたのは、それから数秒後のことだった。
佐倉は春人の着ていたスウェットの中に手を入れる。彼が何をしに来たのか、春人はやっと察した。
「やめろ、佐倉」
春人の声は自分でも驚くほど落ち着いていた。佐倉の両肩を掴み、体をどかそうとする。しかし佐倉は一向に体を離す気配を見せない。
そのとき春人は、部屋にいるレオの存在をすっかり忘れていた。
「すごい音がしたけど、大丈夫かい?」
部屋からひょっこりと顔を出したレオに、春人と佐倉の視線が集中する。次いで春人が佐倉を見ると、彼は狼狽えたように目を泳がせていた。
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