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十月も終わりに差し掛かったある日曜日の昼過ぎ、レオは春人のアパートに大量の文庫本を持ってきた。突然ずっしりとした重みのある紙袋を持たされ、春人は困惑した。
「これは?」
「僕の持っている本。春人、本が好きなんだろう? 面白かったから、君にも読んでもらおうと思って」
レオはそう言いながら春人の本棚に本を突っ込んでいく。最近売れている作家の本もあれば、とうの昔に死んだ作家の本もあった。
「好きな作家でもいるのか」
レオの横で何気なく問うと、彼は手を休めることなく答えた。
「特に好きなのは夏目漱石かな。彼の日本語はとても綺麗だ」
「奇遇だな。僕も漱石の書く文章は好きだ」
それは口を合わせたわけではなく、春人の本音だった。春人は漱石の書く、流れるような美しい文章が好きだった。それは高校時代に彼の著書を読んだのがきっかけだった。
彼に憧れ、自分で小説を書いてみたこともあった。しかし思うようにいかず、三日坊主に終わったことを覚えている。そんな過去を思い出し、春人は陰で小さく笑った。
それから春人とレオは本の話で盛り上がった。春人ほど読書が好きな友人は周囲にいなかったため、こうして誰かと本の話をするのは新鮮だった。春人にとって、それは何とも楽しい午後のひとときだった。
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