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十一月の初め、レオは仕事終わりに職場からアップルパイを二切れ持ち帰ってきた。売れ残ったもので、オーナーが持ち帰り用に箱に入れてくれたのだとレオは言った。
「シナモンは平気かい?」
「ああ」
「それならよかった」
レオはにっこりと笑み、アップルパイの入った箱と共にキッチンに消える。少しして、彼は皿に乗ったアップルパイ一切れとフォークを持って部屋に戻ってきた。春人の前にそれらを置き、「どうぞ」と微笑む。春人は礼を言ってアップルパイにフォークを入れ、口に運んだ。
「どうだい?」
「美味いよ。レオが焼いたんだろう? さすがだな」
世辞ではなく本心からそう褒めると、「ありがとう」とレオは素直に言葉を受け取った。そこでふと、春人は自分だけ食べていることに違和感を覚えた。
「レオは食べないのか」
「今は食欲がないんだ。まかないを食べ過ぎてしまってね」
レオは肩をすくめて笑った。まるで子供みたいな理由だ、と春人も笑う。時間も時間だったため、二人は声を殺して笑い合った。
「こんな時間に食べたら太るかな」
春人が笑いながら言うと、何を思ってか、レオは割れ物に触れるかのように優しく春人の手を取った。
「春人はもっと太ったほうがいい。こんなに細い手首、すぐに折れてしまいそうだ」
そう言ってレオは春人の手の甲に軽くキスをする。突然与えられた微かな温もりに、春人は興奮とも安堵とも似つかない不思議な感覚に襲われた。
春人とレオはいつも通り二人でベッドに潜った。窮屈だが、不快感はなかった。その日、二人はそのまま大人しく眠りについた。
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