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レオの置いていった本をすべて読み終わった頃には、季節はすでに春になっていた。大学三年生になった春人は、またこれまで通り大学に通うようになった。
春人は一人で冬を越した。まったく寂しくなかったと言えば嘘になるが、どうしようもないことではあったし、今までも一人だったのだから別段どうということもないと思っている自分もいた。
あの日以来レオとは会っておらず、連絡もしていない。近所のコンビニなどで顔を合わせることもなかったため、もしかしたらどこか別のところに引っ越したのかも知れないな、と春人は結論づけてもみた。
四月の半ばの昼下がり、春人が大学での講義を終えて家路につくと、アパートの手前に不審な男の姿があった。住宅の塀に凭れ、地面を見つめている。どことなく嫌な予感がした春人は、さっさと前を通り過ぎてしまおうと足早に歩き出した。しかし、それは叶わなかった。
「あんた、俺のこと飼わない?」
それは自分に向けられた言葉に違いなかった。春人は仕方なく立ち止まり、男のほうに顔を向ける。面を上げた男は春人と同じくらいの歳に見え、また存外整った顔をしていた。肌は雪のように白く、ブラウンの瞳はよく透き通っている。加えて、春人好みの顔立ちだった。春人は一瞬息を呑んだが、すぐに我に返った。
「僕にそんな余裕はない」
春人が一蹴するも、男は引き下がる様子を見せない。
「俺だってアルバイトくらいしている。金はあるんだ。でも家がない」
「金があるなら家を借りればいいだろう」
「できないんだよ。わけありなんだ」
「そんなわけありの人間をうちに住まわせろって言うのか」
「ああ」
男は素直に頷く。春人は呆れてものも言えなかった。そのまま再びアパートに向かって歩き出そうとする。男はそんな春人の手首を掴み、「待て。待ってくれ」と必死に引き留めた。
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