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「なあ、頼むよ。迷惑はかけないから」
「あんた、今までそうして何人の人間に声を掛けてきたんだ」
「声を掛けたのはあんたが初めてだよ。あんただからこそ、こうして頼んでいるんだ」
「僕のこと、知りもしないくせに」
「知らないさ。でも感じたんだ。これは運命だ、って」
運命。その言葉に、春人は思わず反応した。
自分好みの顔の男が、自分との出会いを運命だと言った。そのことが、春人を少なからず興奮させた。そうして自身の単純さに自分で辟易しつつも、春人は男に向き直った。
「あんた、家事はできるのか」
「まあ、人並みになら」
セックスは上手いか? 次にそう尋ねようとして、春人は言葉を飲み込んだ。見ず知らずの男にそこまで求めてどうするんだ、と春人は自分に言い聞かせる。
「それが条件か?」
男が目を輝かせる。飼い主を見つけた犬のようなその目に、春人はつい笑いそうになった。
それからしばし考えた後、観念した春人は男に向かって口を開いた。
「わかった。ついて来い」
短く言って、春人はアパートへと歩き出す。「ありがとう」という嬉しそうな声が背後から耳に届いた。
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