犬と拳銃

3/24
前へ
/59ページ
次へ
「なあ、頼むよ。迷惑はかけないから」 「あんた、今までそうして何人の人間に声を掛けてきたんだ」 「声を掛けたのはあんたが初めてだよ。あんただからこそ、こうして頼んでいるんだ」 「僕のこと、知りもしないくせに」 「知らないさ。でも感じたんだ。これは運命だ、って」  運命。その言葉に、春人は思わず反応した。  自分好みの顔の男が、自分との出会いを運命だと言った。そのことが、春人を少なからず興奮させた。そうして自身の単純さに自分で辟易しつつも、春人は男に向き直った。 「あんた、家事はできるのか」 「まあ、人並みになら」  セックスは上手いか? 次にそう尋ねようとして、春人は言葉を飲み込んだ。見ず知らずの男にそこまで求めてどうするんだ、と春人は自分に言い聞かせる。 「それが条件か?」  男が目を輝かせる。飼い主を見つけた犬のようなその目に、春人はつい笑いそうになった。  それからしばし考えた後、観念した春人は男に向かって口を開いた。 「わかった。ついて来い」  短く言って、春人はアパートへと歩き出す。「ありがとう」という嬉しそうな声が背後から耳に届いた。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加