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翌日の夕方、春人が大学から帰ってくると、犬はコートを羽織ってどこかに出かける準備をしていた。
「どこかへ行くのか」
「須坂の桜祭り。桜が綺麗だから一度は行ったほうがいいって、アルバイト先の奴が言っていた。屋台も出るらしい」
犬は嬉々として答えた。須坂は本郷から電車で何駅か下ったところにある駅だ。そこでの桜祭りの話は春人も耳にしたことがあった。なんでもその桜祭りの会場である大きな公園は、日本さくら名所百選に選定されているという話だった。
「一人じゃ寂しいから、春人も行こう」
犬は元よりそのつもりだったのだろう。誘われた春人も迷わず了承した。春人はバックパックの中からアルバイト先の制服を引っ張り出して玄関先に放り、そのままの格好で再び外に出た。
「そういえば、犬はどこでアルバイトをしているんだ」
駅に向かって歩きながら、春人はずっと疑問に感じていたことを尋ねた。犬は本郷のスーパーだと言った。似合わないな、というのが春人の感想だった。カフェやレストランなどの類のほうが似合うだろうに、と春人は他人事ながら残念がった。
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