愛するということ

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 春人はただ単純にセックスの相手が欲しかった。それは北見でなくともよかったはずだ。何故自分が北見を選んだのか、春人はその理由を考えた。  北見のことを思い出したのは、昨日観たドラマが原因だった。それは春人の母が十年前に好んで観ていた刑事ドラマの続編だ。何気なくそれを観ていた春人の脳裏に、ああそういえば過去にそんなこともあったな、あの事件の担当だった北見という刑事はどうしているかな、などと散漫と考えたのだ。  春人はスマートフォンの電話帳から北見の名を探した。「また何かあったら連絡をくれ」と北見が置いていった名刺を見て、当時の春人が連絡先を自身の子供用携帯電話に登録していたのだ。そうして、電話帳は携帯電話の機種変更を繰り返しても引き継がれ、今のスマートフォンにも奇跡的に連絡先が残っていたというわけである。  記憶の中の北見は春人好みの容貌だった。結局春人はそれが北見を選んだ理由だと結論づけた。  あれから十年経ち、色気が増した北見の体は春人をますます興奮させた。口では仕方なさそうに言っていたが、ベッドの上での北見は意外にも積極的だった。春人もまた全力でそれに応えた。ホテル代は春人が自分で出すと言ったが、北見はそれを断って自分の財布から金を出した。それは自分を子供扱いしている証拠だと春人は悟った。不服だったが、あえて口には出さずにおいた。  春人が北見の体温を思い出しかけたところで、テーブルに置いてあったスマートフォンが振動した。手に取って画面を見ると、それは北見からのメールだった。また会おうというだけの内容だったが、春人にはそれで十分だった。
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