第一章 二度目の春

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薄桃色の花びらが、寺の周りでちらほらと色づき始めている。桜の木はこの山奥の寺の周りに少し植わっているだけで、山全体を見ると青々とした木々の中に埋もれるように薄桃色があるだけだ。それでも、本格的な春の訪れを知らせるこの花は、彼に時の流れを感じさせた。 彼、伊東 誠一郎がこの寺に来てからここの桜の花を見るのは二度目だ。 十九歳になる年の春に、この寺の和尚から文をもらってここに来て、芥に初めて竹刀の構え方を教えた頃を思うと、随分昔のように感じる。 弟子の(あくた) (かがり)は最初こそ会話もなく、愛想もなく、中に三十代くらいの僧侶が入ってるんじゃないかと思ってしまうくらい堅物な娘だったのだが、一年経った今では十三歳の娘らしく、少しずつだが笑う顔を見せることが多くなった。
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