第十章 さようなら

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「……ごめんな、お前にばっかり辛い思いさせて……三年以内には、必ず帰ってくる。だからそれまで、待っててくれないか」 「……っ……」 言葉が喉につかえて中々応えられない芥を見て、伊東は沈黙していたが、何か思い付いたように懐から細長い木箱を取り出して、その中身を芥の左手に持たせた。 「かん、ざし……?」 皮肉にもその簪の銀枠の中の模様は、芥が先程夢で見ていた風景に酷似していた。 「あの日、お前に渡そうと思って町まで買いに行ったんだ」 そして芥が勘違いする前に、伊東は続け様に言う。 「前に桜の花を簪に見立て髪に挿した後、お前、男が女に簪渡すのはどういう意味だって俺に聞いただろ。あの時本当の意味が言いにくくて、嘘ついたんだ」
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