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「え……」
「本当は、婚約の意を込めて男が女に渡すらしい。まあ、俺も市之助から聞いたんだが」
「……こん……やく」
「……だからこれは、その証」
そう言って伊東は、芥の左手に添えていた自分の手をゆっくり離した。
「もしお前の心が変わったら、その時は捨ててくれ」
「捨てません! 絶対に……捨てるわけ、ないじゃないですか……!」
芥の言葉を聞いて、伊東は笑った。
柔らかく、寂しげなその笑顔を見て、芥はまた泣きそうになった。
「じゃあな、篝……お前に会えて良かった」
伊東はたったそれだけ告げて、芥に背を向ける。
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