第十章 さようなら

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「え……」 「本当は、婚約の意を込めて男が女に渡すらしい。まあ、俺も市之助から聞いたんだが」 「……こん……やく」 「……だからこれは、その証」 そう言って伊東は、芥の左手に添えていた自分の手をゆっくり離した。 「もしお前の心が変わったら、その時は捨ててくれ」 「捨てません! 絶対に……捨てるわけ、ないじゃないですか……!」 芥の言葉を聞いて、伊東は笑った。 柔らかく、寂しげなその笑顔を見て、芥はまた泣きそうになった。 「じゃあな、篝……お前に会えて良かった」 伊東はたったそれだけ告げて、芥に背を向ける。
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