第十章 さようなら

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「……っ」 引き止めたい、行かないで欲しい。 できることなら今すぐにでも彼の背を追いかけて、みっともなくとも泣いて、縋って、足止めしたかった。 ーー行かないで。 置いて行かないでください。 そう声に出したいのに、色々な考えが芥の頭を過ぎって、言葉を出せなくさせていた。 ここで自分の我儘を押し通して、伊東と一緒に江戸に行っても、うまくいかないことは目に見えている。 行けば伊東に余計な気苦労をかけるだけで、芥ができることなんてたかが知れている。付いて行けば、また自分のせいで彼を巻き込んでしまうかもしれない。 そして芥が一歩を踏み出せない理由は、もう一つあった。
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