第十章 さようなら

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まだ彼の隣には、いけない。 そう思って、芥は呼びかけるのをやめた。 彼は覚悟してここを出て行くのだ。 なら、自分も同じように覚悟しなければならない。 叫び出したくなるような夜が訪れても。 彼のいない季節に、泣きたくなっても。 生きていることが、虚しいと感じても。 生き抜く努力を、しなければいけない。 この先の未来がどんなに理不尽で非情なものだったとしても、一緒に生きていくと約束したのだから。 芥はそれを思い出して、泣き腫らした目を擦った。 今はただ、出せない答えを導き出す為に、もがき足掻くしかない。 また、季節が巡って桜が咲く頃に。 再び会えるその日だけを心待ちにして。
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