第十章 さようなら

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彼がいなくなってしばらくの間は、皆どこか不安気でひっそりと縮こまるように過ごしていたが、三月(みつき)も経つとそれも薄れて、芥以外は以前と同じように町に出て職務をこなしていた。最初のうちは芥もそれを寂しいと感じていたけれど、今ではそう思うこともほとんどなくなった。 この二年と少しの間、伊東からの連絡は一切ない。和尚の話では、文を出せば渡しに来る人間と芥が会ってしまいかねないし、連絡は一切しないと言っていたそうだ。 それは彼なりのけじめというか、覚悟の表れなのかもしれないが。 「先生は、今頃何をされてるんでしょうね」 和尚が用意してくれた湯呑みを両手で持って、芥は空を仰いだ。
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