第十章 さようなら

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今でもふと、思うことがあった。 あの時ああしていれば、この時こうしていれば、こんなことにはならなかったんじゃないかと。 けれどどんなに悩んでいても、過去は変えられない。それならば、せめて伊東に追いつけるように……隣に居られるように、変わらず剣の腕を磨こうと芥は自分に誓ったのだ。 ーー冬を越えれば、春になる。春になれば、また先生に会える。だから、あとほんの少し辛抱するだけだ。 残っていたお茶を飲み干し、芥が稽古を再開しようと立ち上がった時だった。 「ーーっ」 それはあまりにも唐突で。 けれど一瞬だけ、彼に似た後ろ姿が芥の脳裏をよぎった。
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