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今日は流石に、きちんと着ている。
乱雑な言葉遣いはいつも通りだけれど。
「綺麗だ、お嬢。
きっとあいつなら、幸せにしてくれるから」
「……」
「お嬢?」
黙っている私に、僅かに、銀縁眼鏡の下、章史さんの眉根が寄った。
「なんでもないです。
お客様をお待たせするわけにはいかないですもんね」
努めて明るい顔を作って笑うと、章史さんは黙って頷いて私に手を差し出した。
白い手袋の、はめられたその手に自分の手を載せて立ち上がる。
……今日は私の、この先の人生が決まる日。
逃げることはできない。
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