婚約破棄

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部屋に戻り、私はベットに座る。 母は私の前にしゃがみ、婚約指輪に手をかけた。 「外すわね…」 母はゆっくりと私の指からダイヤの指輪を外す。 母越しに見える飾り棚の写真。 婚約指輪をして花束を持ち、肩を抱かれて嬉しそうに微笑む私。 この時は何だったんだろう…。 振り袖姿で雅人の横で笑顔の私。 葵、この時にはもう梨沙子と雅人は二人で会ってたんだよ。 何も知らずに、一人で雅人を信じてたんだよ。 何も知らずに、梨沙子に話を聞いて貰ってたんだよ。 私一人………バカみたいに。 私は立ち上がって、飾り棚にある写真立てを振り払うようにぶちまけた。 「葵!!」 ガシャンとガラスの割れる音。 粉々になればいいと思った。 こんな偽りの幸せ、全部消えればいいと思った。 両手で何度も何度も写真立てを床に叩きつけた。 「葵やめなさい!!葵!!!」 手から血が流れても、痛くない。 全て消し去りたかった。 「葵!!!」 母も泣きながら私を止めるけど、止まらなかった。 「やめなさい!ケガするから!!」 そう言われても止まらなかった。 グッと強い力に止められて、気づいたら兄に後ろから覆い被さるように身体を止められていた。 両手から流れる血。 私は息を上げていた。 「葵…忘れよう…」 兄はそう言って私を宥めた。
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