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「身内しか来ないらしいから、気負わなくていいよ」
そうは言われても、歌姫キャロルの結婚式だ。
「何着ていこう…」
「買いに行く?選んであげるよ」
「また、そんな」
私は笑いながら招待状を棚の引出しに直した。
秋は朝方や暗くなるくらいの時に、出来るだけ目につかない時間帯でやってきて、帰る時も同じように帰る。
周りを気にしながらの交際ではあったけれど、私は幸せだった。
2ヵ月に一度会えるか会えないかの頻度でも、1年以上会えなかったことを思えば平気だった。
私は夕食の調理に戻り、涼んだ秋が何か手伝うよと側にやって来てくれた。
「ドレス見立ててあげるのに」
そう言って唐揚げをつまみ食いした。
私は横に首を振って笑う。
このささやかで、穏やかな時間が、今の私の宝物だった。
秋が後ろから抱き締めてくれる。
「夕食作れないよ」
「葵」
「なに?」
「好きだよ」
今回の日本での滞在は20日間。
秋は忙しい合間を縫って会いに来てくれた。
暗くなったら来て、朝方戻って行く。
スキャンダルにならないようにとの配慮だと思っていたけれど、秋は最近、私と出掛けようと誘ってくる。
冗談なのか本気なのかわからない。
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