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―翌日のまだ夜が明けていない時間に、私と秋は出発した。
レンタカーで秋の運転。
助手席に乗って、地元を目指した。
「実家に連絡した?」
「したよ」
「急に申し訳ない」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん夫婦の驚きと興奮が半端なかったけど」
秋が運転しながら笑う。
「お兄ちゃん、3月のクラムのチケット手に入れるのに友達に5倍の値段で譲って貰ったんだって」
「えっ!?」
「お前らの幸せは俺の身を削ったおかげだって」
秋は声を上げて笑う。
「数曲しか聞かずに出たのは内緒にしててね、お兄ちゃんにバレたら…」
「叱られる?」
「苦労話を延々とされるよ。今日中に東京に帰れなくなるよ」
「それはまずいな」
また秋が笑う。
「お母さんは?」
母…
兄とは正反対で母は電話先ですごく落ち着いていた。
"そう。気を付けていらっしゃいね。待ってるわ。"
でも、声は震えていた。
「気を付けてねって」
「うん、安全運転で行こう」
秋は私の表情で気持ちを汲み取ってくれていた。
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