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明け方で道が空いていたおかげで、予定より早く地元の景色が見えてきた。
「ここね、私の通ってた中学校」
私がそう話すと、秋が窓越しに覗く。
「セーラー服?」
「そうだよ」
「いいね」
「何で?」
「俺、セーラー服派」
また二人で笑う。
路を進むと、3年前に決意して乗ったバス停を通り過ぎる。
"頑張れ、葵"
いつもきっちりしている母が、はだけた足下にも気にも止めずに、着物姿で必死に私にエールを送ってくれた路。
後ろ指や噂話で傷付きながら歩いた商店街の横道を通りすぎる。
絶対に笑顔で戻ってくると決めて、私はここから逃げた。
張り裂けそうな気持ちで歩いた路。
「葵?大丈夫?」
秋が心配そうに私に問い掛けた。
「大丈夫」
自然と笑みが出た。
坂道の先に実家の旅館が見えた。
「秋、あれ」
「了解」
指差した先に私が生まれ育った場所がある。
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