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張りつめた緊張感から解放された私は、さっきよりも濃い塩分が喉に引っかかっているのを感じて、一度放した手を再び伸ばした。
両方の手で、今度はボタンの外された背広の奥深くを迷うことなく目指して、ちょうど彼の背骨のあたりで両手を組んで、彼の胸に頬を押し当てて私は目を閉じた。
どくん、どくん、と彼の鼓動が早くなるのをその振動で感じながら、もう少し身体を寄せた。
熱くなってくる彼の体温の中にいると、聞きなれたレールのこすれる音がとても遠くに聞こえて、安心感と思いがけない心地よさを味わった。
マスクに隠れて彼の表情はまったくわからなかったけれど、
首筋と耳たぶが腫れあがったように真っ赤になっていて、彼の中でもこれは非常事態だと認識しているのが見て取れて、
平和な彼の日常の中に入り込めたような達成感も少しだけあった。
「……大丈夫?」
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