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人の圧力に押し出されて、私と彼はホームに降り立った。
メガネを真っ白に曇らせた彼が、躊躇しながら、たどたどしく私に声をかけてきた。
「何度も車両も通学時間も変えたのに、同じ人に触られてて、本当に怖かったから助かった。ありがとう」
「え?ああ、ホント?」
彼のくしゃみが止まらない。
「……ごめんね、ちょっと待ってね」
鼻をかんでもなお苦しそう。
目は涙目で、マスクから見えた鼻は真っ赤だった。
花粉症なのだと、彼は言った。
隙だらけだったのは、そのせいなのだろうか。
「……どこからどこまで?」
「え?」
「使ってる区間」
同じ路線だから、車両を決めてくれれば合わせて一緒にそこに乗ってくれると、彼は鼻声でそう言った。
ラインで繋がろうと言ったのは、私の方だった。
戸惑う彼の名前を知ってから、すぐにたたみみかけるように君付けで呼んだのも私だ。
純朴なふりを装って、私はしたたかに彼に縄をかけた。
彼が欲しかった。
彼と一緒に電車に乗るようになってから、私は何度も彼に罠を仕掛けた。
余裕なんかなくて、いつも必死で焦っていた。
気を緩ませると「好き」が剥き出しになってしまいそうで、それを隠すための罠を考えた。
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