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平和そうに見えるその水面下にあった、彼の穏やかでひたむきな優しさの底力を思い知ったのは、彼と初めてキスを交わした時だった。
映画に出かけた帰り道、マンションまで送って欲しいと、私は初めて彼に、ぎこちなくわがままを言った。
いつかみたあの女性のように、彼に上手なわがままは言えなかった。
気を使って距離を保ってくれる彼にも少し苛立った。
彼が恋愛に慣れていない事は初めからわかっていたけれど、彼が逃げ腰になればなるほど、私の想いは強くなって苦しくなる。
『私じゃないのかもしれない』
そんな思いが払拭できずに、彼に軽いキスしか出来なかった。
大好きというありきたりな言葉を添えて。
けれど、彼はそれをやんわりと拒絶した。
「優しければ、誰でも良いの?」
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