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「……なんで、どうして僕なの?」
彼の不安が声に表れている。
うまくごまかせても、私は全部をさらけ出してはいない。
卑怯が罪悪感を上回っていて、私はうまく笑うことが出来なかった。
「……ごめん、問い詰めるような言い方して」
しんと静まったマンションのエントランスの中に、彼と私の唇が触れ合う音だけが響いていた。
絡ませた舌から彼の熱が伝わって、私の体内に入り込んでくる。
私の胸に刺さったままの小さな棘を溶かして、そのさらに奥にまで浸透して、隠しておいた涙まで結晶にした。
不安を抱きかかえたままで、彼は言った。
「……好きだよ」
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