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 恋とはどんなものなのだろう?   「旦那に抱く感情のことじゃない?」   一昨年、27歳で結婚した姉の二葉はリビングのソファでテレビを見ながら呟いた。二葉は恋など戯けだと言う。賢くてスマートに生きる姉には不必要なものらしかった。それでも私は気になってしまうのだ。   「また考えてるの?」   「…ゆき、」 朝の通学路。 行き交う人は皆、制服姿だ。 登校時間や下校時間も定められている為、この時間は学生しか出歩いていない。もちろん、不登校者は別だが。   「まぁた、難しい顔して“恋”の話?」   私が小さく頷くと彼女は少し呆れた笑顔で私を見下ろす。そんな顔をされたって気になるものは気になるんだもの。   「ゆきは気にならないの?好きでもない人と結婚することとか」   「気にならないわけではないけど、それがこの世界のルール。一般市民の私達が変えられる物事ではないわ。彩葉は夢を見すぎなのよ」   「夢を見て何が悪いの?世界は広いのよ!言語が数あるように私達の知らない世界も文化もきっと沢山ある。この世界の外に広がる未知に夢を見たってバチは当たらないわ」   ガラスの壁にそっと手を添えてまだ見ぬ世界へ思いを馳せる。 夢を見たっていいじゃない、私達はまだ17歳なのだ。未来はまだなにも描かれていない。   「彩葉…、」   「そろそろ行きましょうか。遅刻なんて出来ないしね」   困ったような切なそうな表情をしたゆきは私の言葉に少しだけ微笑んで歩き出す。その後ろ姿に続くよう踏み出した足はものの数歩で立ち止まった。 自分の上で何かが削られるような微かな音を耳が拾う。見上げてみても肉眼では確認できなかった。   「彩葉?」 「ごめん、何でもない」 振り替えって私を待つ、友人の隣に急いで並ぶ。    季節は、春。 四季なんてものはもう存在しないが植物が芽生え、花開く季節。そして出会いの季節だ。 何かが起きるようなそんな気がした。
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