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   彩葉たちが去った通学路。 上空からハラハラと粉が降る。灰色のそれは誰にも気づかれぬよう細心の注意を払って行われている案件の証だった。上空では外部からこの世界の天井に小さな穴を開ける作業が行われていた。直径1cmほどの穴を錐で開け、そっと小さな種子を一粒、地上へ蒔く。ターゲットが毎日通るこの道の花壇のそばに必要な人物だけに目に留まるように。    花壇のガラスケースには少しだけヒビを付けた。毎回花を見る習慣がついているターゲットはすぐ気付くだろう。ヒビに気付けば種子にも気付く。  上空の彼らはマスクの下でニヒルに笑うと錐で開けた穴にモルタルを詰め蓋をした。    地上へ落ちた灰色の粉は空調管理室のロボットに排除されるだろう。  誰にも気づかれぬ内に事は進む。    やがてそれはこの世界を狂わせてしまうのに、はじまりの音は誰の耳にも聴こえなかった。
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