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 先程担任は、今は“見当たらない”といった。敢えていない、ではなく見当たらないと言ったとするならばやはりこの世界の外には存在するということなのだろうか。実験室の窓の外、視界に広がるのは無機質な色の塊。ガラスのなかに押し込められた花が少し息苦しそうに見えるのはやっぱり私だけなのだろうか。   「今日の課題はこの花についてレポートを書いてくること」   いつのまにか終わりに近づいていた授業。最後を締め括る担任の課題の声にハッと顔を上げた。   担任はスクリーンに一輪の花の画像を映していた。なんて綺麗な花だろう。 「この花に名前はない、図書館でもネットでも何を使ってでもいい。この花について情報を得てレポートを仕上げてこい。期限は…そうだな、一週間」   名のない花は今週の担任の興味の的。 情報を集め、レポートを仕上げ、それが担任のお眼鏡にかなえば良い単位が配布される。普段のテストであまり点の取れていない生徒にとってある意味救いの手だ。   「今日の授業で述べたように毒がある虫もいるように植物にも毒性や麻痺、幻覚を見せたりするものもある。課題の花が無害なのか有害なのかも書いてくるように」   無理難題を言いつけた割りに担任の顔はどこか困り顔だった。   「先生どう「彩葉、帰ろ!」 私の言葉はゆきの声にかき消され、私の疑問は宙に溶けていく。 まぁ、またいつか聞けるだろう。    モノクロの実験室を出て、まだ部屋に残る担任を振り返り見る。目があった先生はやっぱり少し困り顔だった。    
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