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「また難しい課題だよね~」
「ほんとだね」
ゆきと並んで歩くいつもの道。
代わり映えのない風景、塗装し直されたベンチに腰かける老夫婦。
いつもと同じ風景が過ぎ去る中、突然ゆきが足を止めた。
「ゆき?」
「見てよこれ!花壇にヒビが入ってる!誰の仕業よ!」
そこはゆきのお気に入りの花が植えられた花壇。オレンジの花が元気よく花開いている。その花壇のガラスケースには、ゆきが言うように大きなヒビが入っている。今朝はなかった、大きな傷跡。下校するまでの数時間のうちに何かがぶつかったのだろうか。
周囲に何も落ちていないか調べながら花壇のそばにしゃがみこんだ。ゆきはその間に環境整備室へ連絡をしてくれている。
「…なにこれ、」
花壇のそばにはヒビの原因となりそうなものは落ちていなかった。あったのは、小さな琥珀色の種。見逃してしまいそうなほど小さなそれは陽の光を浴びてキラキラ輝く。私はそれをそっとハンカチにくるんでポケットにしまいこんだ。なぜだか見つかってはならないような気がして。
「彩葉~、もうすぐ修理に来てくれるって。何か見つけた?」
「ヒビの原因となりそうなものは落ちていなかったよ」
「そっかぁ~、まあ後は整備室の人に任せて帰ろ!」
お腹すいた~と先程まで怒っていたゆきはにこやかに笑いながら先をいく。その背に私も続く。
帰ったらこの種を調べなくちゃ。
ポケットの中のハンカチをぎゅっと握りしめながら急く気持ちを押さえ付けて家路についた。
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