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育
冷たい床を駆けるように踏み、女の子としてはさっぱりとした自室へ戻ると重たい鞄をベッドの上に放り投げた。きちんと整理された勉強机にしわくちゃになったハンカチを広げ、中に丸め込んでいた“拾い物”をつまみ上げた。太陽光に照らされてキラキラ輝いていたそれは、部屋の人工光の前でも同じように輝いている。分野別に並べられた本棚から植物の書籍を取り出し、頁をめくる。何度も同じ頁を開きすぎてかたがついてしまったところもある。めくる手が止まったのは、書籍の最終章だった。
『名前のない植物』
「見つけた、」
担任が課題に出した名のない花がそこに紹介されていた。種は小振りで太陽光の下では淡い青に見える。ガーデニング用の土で育成が可能である。種自体が希少価値がある、等々レポートを書くには十分な内容だ。
勉強机の一番下の引き出しに手を伸ばす。そこには家族にすら教えていない自分だけの宝物を隠している。道端で拾った花壇のガラスケースの破片や幼い頃、探し集めていた四つ葉のクローバーを押花にしたもの、そして小さなの植木鉢育成キット。もちろん、ガラスケースはついてない、室内で育てるのだから必要ないだろう。ハンカチの上に置いた琥珀色の種をつまみ上げ土の入った植木鉢の中にそっと入れ土を被せた。あとは定期的に水をやり、発芽を待つだけだ。
拾った種は、担任が課題に出した名のない花とは別の種類のようだが植物などどれも似たようなものだろう。
育ててみれば案外綺麗な花が咲くかもしれない。
「早く出ておいで」
綺麗な顔を見せておくれ、
勉強机に肘をたてて植木鉢に話しかけた。発芽が待ち遠しかった。
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