第1章

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「何回言ったらわかるんだ!俺がいる時に配達しろっていってんだ!毎回不在票ばかり入れやがって!」 こんな客は案外多い。 怒鳴られてなんぼ。 「お手数をおかけして申し訳ありません。お客様の仰ることはごもっともです。取りに来ていただくのはかなりの負担ですよね。お客様、もしよろしかったら、裏に郵便課への直通電話の番号が記載されておりますので、お手数ではありますがこちらにお電話をしていただき、ご都合の良い時間帯にお届けすることも可能です」 お客様は不在票を裏返して一瞬間を開けたら「早く言えよー!これからはそうするわ」と少し笑いながら納得したようだ。 「もし、この時間帯の中でもどうしてもご都合がつかない場合は配達員や上の者に相談しますので、ご相談いただけますか?」 「わかった!これからそうするわ。ありがとな」 田舎の郵便局はこんな感じのお客様が殆どで説明したら納得してくれる。 クレームも配達についての相談も窓口で対応できることは全てやらなきゃいけない。 昼間の窓口は綺麗な格好の女性社員や清潔感のある男性社員が静かに仕事をしている。 しかし、私がいるのは郵便事業会社。表舞台に立つのは窓口や配達員だけ。あとはお客様の前に姿を表さずに荷物の仕分けや電話受付、苦情処理をしている。制服も作業着。窓口でもスカートなんかは履かない。力仕事の現場だ。 「坂野さん、今の対応、上出来だよ」 椅子に座りながら後処理をしていた私に声をかけてくれたのは同じ現場にいる事務の中川さんだ。 「ありがとうございます。あれくらいのクレームなら慣れてしまいました」 苦笑いをする私に中川さんはゴディバのチョコレートをくれた。 「疲れた後は甘い物が一番だから」 そう言って笑いながら窓口を出て行った。
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