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「レナ様、どうされましたか?」
「……ちょっと気分が優れなくて」
平和を望んでいるだけで、戦に勝利したい訳では無い。それがレナの表情からトウマの心に伝わる。
「トウマさん、一つ質問しても宜しいですか? この戦は、いつまで続くのでしょうか?」
「そうですね……予想通りに進むと仮定して、大きい戦が数回あれば全て終わると思われます」
「……」
「この戦は隣国である五ヵ国だけの争いです。期限も決められているので、長引く事も無いでしょう。但し、例外も有り得ます。レナ様は、サンド様の残された言葉が気になるのですね?」
レナが心に溜めていた声を読み取り、トウマは逆に質問を投げ掛けた。
「サンド様が最後に残した言葉、本当の敵と言う意味……これは予測が出来ます。しかし、現状では予測の域を超えません。そこでお聞きしたいのですが、レナ様が光国の方針を聞いてから私に会う迄に、サクラの行動や言葉で疑問を感じた事は有りませんか? どんな些細な事でも構いません」
レナは頭の片隅にあった記憶を呼び覚ます。
「本当に些細な事ですが……サクラちゃんが城の中で情報を集めた時に、光国の方針がもっと大きな事に繋がっているかも知れないと」
「もっと大きな事?」
「はい。それと、光国から心国に向かう途中の関所で、サクラちゃんは門兵さんに名前を聞かれていました。それで関所を通った後に振り向いて、じっと何かを睨み付けていたような……」
トウマは両眼を閉じ、レナの話を頭の中で思い描いた。
「方針……関所……振り返る……名前……」
「何か分かったのですか?」
「新たな予測は立ちましたが、まだレナ様へ伝える程の確信が持てません。当面は光国の方針に従って五ヵ国を統一する以外、やれる事は無いですね」
「そうですか……」
重苦しい空気が漂うと、沈黙の月明りが二人を照らす。優しく包み込む光の衣は、レナとトウマを励ます様に温かく染み込んだ。
やがて光は無数に拡散し、幻想的な光りの桜吹雪が舞い踊る。
「サクラちゃん……そうだよね」
広げた両手に光の花びらが舞い降り、レナの瞳に力強い輝きが戻った。
トウマも次の戦へと頭を切り替える。
それは知の国との決戦が近い事を告げていた。
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