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「そうか……この地は何度も確認しているから、すぐに指示を出そう。今回の戦は、ゾイに偽の退却をして貰うからな。頼むぞ」
「退却だと? 私は撤退しない事を誇りに思っている。その策は聞けんな。他の奴にやらせろ」
やはりそう来るかと、トウマは幕舎の外に待機させていたレンカを呼び出す。
「初めまして、レンカです。宜しくお願いします」
可愛らしく笑うレンカを見て、ゾイの動きが止まった。少し照れた表情で初々しさを表に出し、見上げる瞳は子猫の様に愛らしく見せている。
女の武器を余すところ無く使うレンカに、レナも魅入ってしまった。
「……トウマ、この美しいお嬢さんは?」
「偽の撤退と言う難しい要求をする代わりに、お前の要望を叶えてやろうと思って連れて来た。しかし、参ったな……ゾイの誇りを傷つける訳にはいかない。やはり、他の者に……」
話を遮り、ゾイはトウマの手を握り締める。
「何を言ってるんだい? お父さんは、トウマ君が約束を覚えていてくれて嬉しいよ。退却? この子となら地の果てまでだって逃げてやるさ。アーハッハッハ……」
「誰がお父さんだ。それに、気持ち悪いから手を離せ」
ゾイはもう一度レンカの顔をじっと見つめる。
恥ずかしそうに顔を赤くして俯くレンカ。
「本当に、この子を私の副将にしてくれるのだな?」
「お前が言う事を聞けばな」
「任せておけ! すぐに指示を出すんだったな。よし、全員集めて来てやろう。さあ行こう、レンカちゃん」
「はい、ゾイ様」
楽しそうに幕舎を出て行くゾイを見て、ここまで上手く行くとは思っていなかったトウマも呆気に取られる。
「トウマ君……すごい効き目だったね。ゾイ君の事を一番理解してるだけはあるよ」
「……ああ、まあな。それで、レナ様は何をなさっているのですか?」
「えっ?」
振り返ると、レナはレンカの細かい動きを必死に書き留めていた。
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