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レナが財国を治めてから数ヵ月が経過した頃、知国では新しく開発していた兵器が完成していた。
「どうだい、素晴らしい兵器だろう?」
「これがあれば鉄壁の守りとなりましょう」
妖絶に微笑むのは、レナの姉であるチョウキ。その横では光国から連れて来た容姿端麗な男のリュウイが含み笑いをしている。
リュウイはチョウキのお気に入りで、唯一信頼を寄せる人物であった。
「この多射と名付けた兵器があれば、一度に多くの矢を放つ事が出来る。始国の侵攻も少数の兵で止められるねえ」
多射は十本の矢が並ぶ傾斜をつけた発射台があり、その横には矢を溜めておく大きな箱が取り付けられていた。
兵士が歯車を回すと弓が引かれ、十本の矢が一斉に放たれる。その後は空になった発射台へと自動的に矢が転がって補充される仕組みとなっていた。
「一人で十人分の働きをする多射があれば、始国が攻めて来ても恐れる事はありません。兵器自体は動かせないので守りにしか使えませんが、それを差し引いても十分な性能です。これで財国に攻め込む際の後ろ盾が出来ました」
「それにしても、サンドがレナに負けるとは思ってもみなかったよ。せっかく不可侵条約を破って財国を攻め落とそうと思っていたのに台無しだ。こうなると光国でレナを殺せなかったのが痛いね。そう言えば、あの件は進んでいるかい? トウマをレナから切り離せば……」
「もう暫く時間を頂ければ必ず用意致します」
「そうかい。じゃあ駄目元で、もう一つ心国に計略を仕掛けてみようかね」
チョウキは魅惑を含む黒い笑いを見せ、リュウイに計略の内容を伝える。
「……分かりました。すぐに準備しましょう」
「頼んだよ。この計略は成功すればそれで良いし、失敗してもあの件の成功率が高い事を証明してくれる。ふふっ。さあ、レナはどうでるのかねえ……」
知の国では雪が舞い始める。本格的な冬の到来と共に、レナには新たな危機が迫っていた。
【第五章 完】
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