第5章 手のひらの中で遊ぶ

19/21
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
…いえそれが別に悪いとかじゃなくて」 誤解されないよう慌てて付け加える。 「もしそうなら。わたしの目に入らないよう気を配ってくれてるのかなぁ、と思って。…だったら、別にそんな気遣いはしなくて平気だよ。わたし、加賀谷さんが誰かと何してても見る目が変わったりしない。イメージ変わったり幻滅したりしないよ。加賀谷さんだってわたしがどんな変なことしてても偏見なく接してくれるじゃん。…わたしだってそこはちゃんと切り離して加賀谷さんのこと受け入れられるから」 最初から、あんな変態なわたしだって知っててもきちんとした話のできる相手として接してくれた。いやらしい女だって軽く扱われたり軽蔑の目で見られたことはない。性的な好みと人格をきちんと分けて考えて尊重してくれる。わたしだって彼のことそういう風に考えられるのに。 そう思って隣を見ると、彼の目がわたしを見つめているのと視線がかち合った。タクシーの暗い後部座席の中でもはっきりわかるほど柔らかい、優しい色合いが滲んでいた。 「馬鹿だな、夜里。そんなことお前の前で遠慮したりする訳ないだろ。お互い様なんだってわかってるし。そうじゃなくて、本当にもうそういうの、からっきしなくなっちゃったんだ。…うんざりしちゃったんだよ、変なことばっかりこの目で見過ぎて」 「ED…」 「失礼だな、そんなんじゃない」 思わず小さな声でぼそっと呟いたのを耳聡く聞きつけて怒り始めた。そこはちゃんと否定したいプライドがあるらしい。男って面倒なもんだな。 彼は胸の前で腕を組み、前方に視線を彷徨わせて考えるように付け足した。 「まあ元々たまたま友人関係の絡みで巻き込まれたようなもんだし。俺も一応男だから最初は物珍しくてちょっとは羽目外したけど、本来並外れてそういう欲が強い方でもないみたいで。結構早い段階で萎えちゃったよ。…あのな、AV男優みたいな言い草でこっ恥ずかしいんだけど。あれって結局、好きな相手とする普通のやり方のが一番、何よりいいんだ。それに勝るものなんか他にない。別に美化してる訳じゃなく正直な、シンプルな結論としてはね。…多分夜里にもいつかそのことがちゃんとわかるようになると思うよ」 わたしはげんなりして天を仰いだ。 「そんな、自分ばっか綺麗なステージに上がっちゃって。こっちは未だ泥沼で溺れてる真っ最中だってのに。そんな美しいことよくものうのうと言ってのけましたね」
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!