第5章 手のひらの中で遊ぶ

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「ないですねぇ」 そこは素直に頷く。自慢じゃないけど芸能人なんか絶対に見分けがつかない自信がある。相手が金持ってようが世間的に有名だろうが誰とだって個人的な関係を持つなんて真っ平ごめんだし。 彼は生真面目な表情で軽く頷いて続けた。 「そういう意味で人間性も信頼できないといけないし。当然それだけじゃなく、性的な志向というか、適性がなきゃ無理。何しろ義務感で相手されてると感じさせたら絶対駄目なんだ。女の子の方も心身ともに本気で愉しんでることが伝わらないと…。お金のために我慢してプレイしてるって結構わかるんだよ、男にも案外と」 「お金?」 わたしは思わず訊き返した。加賀谷さんは肩を竦める。 「ここと違って向こうは女の子には報酬というか、手当がある。いくらそれが好きって言っても何の見返りもなしじゃ実際のところ引き合わないよ、やってみればわかるけど。女性会員の方もしたくてたまらない子たちが無償で進んで参加してるって建前にはなってるけど、男性たちも薄々はわかってるでしょ。その代わり女の子の質を保証してる訳だから。誰でも参加できるってなるとそこら辺が難しいからね。つまり、粒を揃えるのが」 苺か葡萄みたいな言われようだ。わたしは憮然として肩を聳やかした。 「それで、わたしをスカウトしようって訳?相手の男性が誰なのかは全然興味がなくて、変態的なセックスが大好きだから?そこを見込まれた、って訳ですか」 彼はわたしの突慳貪な態度に構わず平然と返してきた。 「そう。それが一番大事な条件だよ。自分の欲望に率直で男の前で取り繕わない。変なプライドや自意識を手放せる、つまりセックスの最中に馬鹿になれるっていう」 どんな表情をしていいか分からない。怒るべきなのか?っていうか。 見てきたようなこと言われて決め付けられてるけど。わたしのしてるとこ、どうしてこの人にわかるんだろう?当たり前だけど加賀谷さんとしたことなんか金輪際一回もない。それは自信持って断言できる。 思わず言葉を失ってるわたしを見て、彼はあろうことかちょっと笑った。 「ごめん、失礼な言いようだったな。でも誰にでもできることじゃないんだよ。ここに来てるような女の子でもしてる最中に自分を手放すのは案外簡単なことじゃない。大抵の女性にとっては結構怖いことなんだと思う。そういう意味で夜里には才能がある」
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