第5章 手のひらの中で遊ぶ

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そういう意味があったんだ…。 「だから、女の子を選ぶ基準は俺が決めてる訳じゃない。あくまであの人が君に声をかけて勧誘するって決めたんだけど…。普通、スカウトする子をここに呼んで話をする時は叔父本人が来て自分の口からその話をするんだけどね。夜里については俺に話させてほしいって頼んだんだ。どういう風に受け取られるかわからなかったし。ショックを受けるといけないな、と思ったから」 素っ気ない口調ながらその言葉に不意を突かれ口ごもる。 「…親切なんですね」 ほぼ冷静さを取り戻した彼は考え深げに腕を組み、宙を仰いだ。 「正直なところ、この話を君に持って行こうかどうか迷った。叔父貴には断られた、って報告して間で握りつぶすことも出来るなって…。でもそれが本当に夜里のためになるのかどうか、考えたらよくわからなくなったんだ」 「どうして?わたしのことだからわたしが自分で判断しなきゃ意味がないってこと?」 すっかり冷めたコーヒーのことをようやく思い出しカップを手に取る。彼は静かに首を横に振った。 「そういうことじゃなくて。勝手な想像だけど、君にとってまだ『これ』は終わってないんじゃないかって…。ここは表立って学生限定って銘打ってはいないけど、何となく慣習として卒業したら皆足を踏み入れないって空気がある。いつまで経っても出て行こうとしない奴は俺が直接呼び出して肩を叩くこともあるし。こんなことは学生のうちだけ、羽目を外して馬鹿騒ぎしてきっぱり終わらせたらそれぞれ大人になって卒業してほしい。それがこっちの本音でもある」 うんまぁ。わかる気はする。 「だから、折に触れてここにいるうちに自分と趣味の近い気の合うセックスパートナーを見つけておけ、と言ってもあるし。やっぱり特殊な趣味のある奴もいるから、こういう場をそういうことに上手く使って欲しいなと。在学中に安全な場所で相手の人格も含めてそれを見定められる訳だから悪い話じゃない。でも、夜里に関してはそれでいいのかな、って危惧は以前から感じてて」 わたしは肩を窄めた。面目無い。 「すみません。危なっかしい、って意味ですね」 彼は容赦なく肯定した。 「そう。君なら卒業した後も関係を続けたいって相手が引きも切らないだろうけど。正直俺は不安なんだ、目の届かないところで夜里がああいうことを続けていくのが。
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