第5章 手のひらの中で遊ぶ

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クラブっていう枠が外れたところで男たちと君の関係が変質したり力のバランスが崩れてももうこっちにはわからない。取り返しのつかないことがあってからじゃ遅いんだし。やっぱり複数の男対一人の女の子って構図は普通なら危険性が高い。こういう約束ごとの範囲内では一応成立してるけど」 「…はい」 わたしはますます身を縮めた。自分の性的志向をこうはっきり口にされちゃうと。いたたまれないことこの上ない。 彼は穏やかな眼差しをわたしの上に投げかけた。 「卒業するまでに夜里の気が済んで、ぽかんとこういうのが抜けることだってあり得る。もうこんなことは必要ない、全然したいと思わなくなったってんならそれはそれでいいんだよ勿論。でも、もしかしたらそう簡単にこれは終わらないかもしれない。単純に一過性の通過儀礼みたいなものでひと通り経験したらさっぱりしたっていう訳にはいかないかも。…そうだとしたら、もしかしたら社会に出てから知り合った未知の相手とそういうことになる可能性だってある。そうなったら俺にはもう介入できないし」 言われた内容の意味が一呼吸おいて頭の中に沁みていく。わたしはどう反応していいかわからないままともかくも頷いた。 「…はい」 「それくらいなら俺の手許に置いて、目の届く範囲で解消してくれた方がいいんじゃないかと思ったんだ。そこはここよりもっとずっとセキュリティも厳しいし安全管理も行き届いてる。従業員も大勢いて、度を越した行為はきちんと制御してくれるし。何よりプライバシーも保護される。どうせこんなことから抜けられないんなら、そういう場所の中だけに収めて外では真っ当に生活してくれたら俺としてはありがたい。…どうかな、そういうことでは?」 わたしは何とも答えづらくその顔を黙って見返した。加賀谷さんはわたしをリラックスさせるように笑みを浮かべて言葉を継いだ。 「まあ、そこでも当然セキュリティカメラが全ての場所に隈なく設置されてるから。また君は俺に何もかも全部見られることになるけど。でもあんまりそのことは気にするな、もう。安全と安心には代えられないだろ。セコムかなんかに払う代償みたいなもんだと思って諦めろ」 …はぁ。 「わっ、…かりました…ぁ…」 煮え切らない返事を渋々口にする。言ってることは納得するより他ないんだけど、なんか悔しい。 大人の言うことを聞くしかない、選択肢が与えられない子どもみたい。
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