第5章 手のひらの中で遊ぶ

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そしたら彼氏がいるって設定はまずいか。…お前、そいつにどう思われるかが気になるの?」 「まさか。全然そんなこと」 わたしは慌てて否定した。 「その人はなんて言うか、わたしとは住む世界が違うっていうか。別次元、並行世界の別の生き物って感じで。リアルに全然そんな気起こらないです。そんなご心配は無用そのもので」 何故か彼はちょっと肩を窄めた。 「何だよ、珍しく人並みに誰か気になる男でもできたのかと思ったのに。言っとくけど、そうなったらなったで隠す必要ないぞ。ちゃんとすっきりこっちの世界から抜けさせて足を洗わせてやるから。そういう相手ができたら早めに言えよ」 わたしは首を縮め、情けなく嘆息した。 「多分だけど。そんなことはまぁまず起こらないです。…二十四年間生きてきてぴくりともなかったのに、もう今更」 加賀谷さんはふん、と遠慮なく鼻先で笑った。大人ってやだね。 「たかが二十四年だろ。小娘が、悟ったようなこと言ってんじゃない。そうやって決めつけて油断してると痛い目みるぞ。何年生きてても何が自分の身に起こるかって案外予測できないもんだよ。っていうかな、起こってほしくないことに限って起きるんだ、必ず。お前もあんまり気を緩めない方がいいよ。過信は禁物ってことだな」 「まるで恋愛なんて天災みたいな口ぶりですね」 憎まれ口を叩きながらふと気になる。この人、達観したような口調だけど。一体自分はどうなんだ。 「加賀谷さんは学生の時はクラブのメンバーだったんでしょ」 我知らず口から疑問が溢れでる。彼はちょっと微妙な声色で曖昧に肯定した。 「…そうだよ」 「だったら、普通と違う嗜好も多少はあったってことでしょ。今のクラブで加賀谷さんが発散してるの見たことないけど。それはどう解消してるの?もう満足して気が済んで、バケツ一杯溢れ出して一滴も入らないって話は勿論聞いてるけど。いくら飽きたって言っても何にもなしってわけにいかないでしょ。まだそんな歳にも見えないし」 そう言えば、彼の正確な年齢は確認したことがない。何となく三十歳前後かな、って勝手に見当をつけてたけど。どちらにしろ性欲が完全になくなるような歳じゃないと思う。 ってことは。普通に考えたらもうちゃんと決まった相手と落ち着いた生活を送ってる(結婚指輪はしていないが)。…或いは。 「わたしの見てないとこで会員の女の子と…、ってことも、あるの?もしかして。
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