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「夜ちゃんてさ。マネージャーの彼女なの?実際のとこ」
声を潜めて尋ねられ、わたしは驚いて問い返した。
「え、何でですか。そんな」
否定しかけて、ちょっと思い留まる。別にそんな事実はないが。
何故か先輩くんは手を伸ばしてわたしの頭をくしゃくしゃと撫で、感じ入ったように言った。
「だってさ。お気に入りとは言え…、明らかに他の女の子と扱い違うじゃない。親しさも段違いだし。てか、会員の女の子他は皆、殆どあの人と必要事項以外話したことなんかないでしょ。そんなにフレンドリーなタイプでもないしさ。どうやってあんなに親しくなったの?」
わたしは首を傾けた。どうやってと言われても。
「うーん、ここに来る前からの知り合いだから。それでじゃないですかね。前のクラブの時にそこの管理をしてて、あの人が」
「あ、学生サークルのクラブ?夜ちゃんってそっちからなんだ。でも、女の子はそのルート、普通に多いよ」
「ですってね」
頷きながら頭の端で考える。てことは、この二人はそっち出身じゃないって訳だ。黒服の中には向こうのクラブ上がりが何人かいるって聞いたことがあるけど。
尤もわたしは学生の時のクラブでの知り合いにここで顔を合わせたことはない。言うほど割合が高くないのかもしれないけど、一方で自分が昔関係した相手をきちんと記憶してるかと言われるとそこは自信がない。もしかしたら何回かお手合わせしてる相手でも、判別できてない可能性もある。況んや女の子については尚更。
彼らはわたしを丁重に支えて移動し、加賀谷さんのいるマネージャーの詰所のドアを抑えた音でそっとノックした。
「…おぅ、どうぞ。入っていいよ」
気安い声が中から聴こえて、彼らはやや畏まってドアを開けた。失礼します、ときびきびした声を出してわたしを支えて部屋の中へ足を踏み入れる。
例によって加賀谷さんは壁際のデスクに置かれたパソコンに向かいっ放しだ。俺くらいになると職場に詰めっきりになる必要ないからこんな掛け持ちしてられる、尤も昼も夜もないからきちっと勤務時間決まってるのとどっちが楽かわかんないけどな、と以前言ってるのを聞いたことがある。こっちを振り向きもせずに口だけでわたしたちを迎え入れた。
「おう、お疲れ。ご苦労だったな。…夜、体調どうだ?問題ないか?」
「うーん。…どうだろ」
さすがに身体に力が入らない。
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