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わたし多分、どこか異常なのかもしれない…。
「気にするな。別に俺はお前のこと、おかしいとか変だとかは思わないよ」
こちらの考えを読み取ったように彼が素っ気ないながらも穏やかな声をかけてきた。
「今の夜里にはああいうのが必要なんだと思う。その切実さとか本当の理由は他人にはわからないから。とやかく言われる筋合いはない。誰かに何か言われたりからかわれたりしても堂々としてればいいよ。ただああいうことは相手のあることだし、セックスならではの危うさもあるから。ここみたいに完全に管理されてる環境以外では絶対にしないように気をつけてくれさえすれば」
相変わらず振り向きもしないその背中から聴こえる声がほんの少し柔らかさを帯びた。
「俺もお前の安全に常に気を配ってフォローはするから。あまり気に病むな。大丈夫、前にも言ったけど、こんなことは案外いつまでも続かないよ。そのうちある日突然に憑き物が落ちたみたいに急に欲求がなくなって楽になれる日が来ると思うよ。それまでの間だと思って気を大きく持ってればいい。せいぜい今のうち、愉しんでおけよ」
口調は突っ放すようだが声は優しい。わたしは毛布から顔を出して上目遣いに彼を見た。
「そんなこと言って。わたしがここからいなくなったら加賀谷さんだって困るんじゃない?」
彼はつれない口調で片付けた。
「クラブのことなら、お前の代わりなんかいくらでも何とかなるよ。そんなことより夜里の人生の方が大事だろ。…お前は余計な心配しないで、自分のことだけ考えてればいいんだよ」
ペントハウスのクラブに出入りするようになって一年ほど経った頃だったと思う。わたしは改まって加賀谷さんに呼び出された。
日時の都合を訊かれ、微妙な違和感を感じて首を捻る。週に一度くらいは何となくあの部屋で顔を合わせてるのに。敢えていつが空いてるかなんて。次に会った時のついでとかじゃ駄目なのか?
なんて軽口を返信する気にもなれず、素直に予定を知らせた。
場所はいつも通りあのペントハウスだ。本当に、わざわざどういうことなんだろう、と漠然と胸をざわつかせながら約束の日時にそこへ赴く。
彼は既にコーヒーをドリップし終わってわたしを待っていた。当然他に人の気配は感じられない。
いつもしているように、湯気の立つカップを前にダイニングテーブルに向かい合って座る。
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