6

1/2
前へ
/18ページ
次へ

6

午後七時、私は100円玉を手に握りパチスロ店の前にいる。100円玉は自販機での収穫だ。 死を覚悟した男が100円に安堵している。滑稽なものだ。 コンビニであんぱんでも買おう、水とあんぱんがあれば明日一日は動けるだろう、そんな算段をしながら自分に関係のないはずのニュースを眺めている。 「おいっ5兆円の寄付だってよ」 「5兆円?まじかよ」 赤信号で足を止め若いサラリーマンがニュースを見ていた。アメリカのIT企業のCEOが株の99%を寄付すると発表したのだ。時価総額は5兆円を超えるらしい。 「すごいよな」 「そうか?大したことねえよ」 「どうして?5兆円だよ?」 「確かに額とかその恩恵の大きさでいうとすげえけどよ。このCEOはさ、残っている財産だけでも、豪邸に住めるし、ヨットだって持てるんじゃねえか?食うもんだってきっと高級なもんばっかだぜ。足るを知れって言うだろ?それだけで十分じゃん。俺の給料から1万円寄付する方が痛いに決まってるよ」 「まあ、そうかもしれないけど、お前1万円どころか100円だって寄付したことないだろ」 「どっちでも一緒だよ。こっちは月20万で働いてんだ。1万円でも100円でも20万弱。向こうは何億あるかわかんねえんだから1万も1円も誤差だよ。だから俺は寄付はしない」 「そういう俺たちが寄付をすることに意味があるんじゃないの?」 「自己満足にしかすぎねえよ。はした金じゃ誰も喜ばないさ。寄付なんてのは金持ちに任せときゃいいよ」
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加