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「樫田君、この前の寄付の件だが、今からでも減額は可能か?」
「はあ、可能は可能ですが…」
「1千万ほど減額したい。減額したところで寄付したことを宣伝に使えなくなるわけではないしな…社長の意向だ…」
サラリーマンの会話が昔を思い出させる。
減額どころか1円でも上積みすべきだったと後悔する。
私は自ら聖地に足を踏み入れた。だから金をくれとは言わない。だが他の聖地の人たちはどうなのだろうか。
彼らは怠け者だからあの場所にいるのか。もちろん、そういう人もいるかもしれない。
だが、私のように歯車が狂わなければ聖地になど来ることはなかった、そういう人もいるかもしれない。
彼らを救うことはできないのか。救いなどいらないという自分との矛盾を感じながらそう考える。
サラリーマンの言うことも身にしみて理解できる。20万そこそこの給料ならそれほど余裕はないだろう。
確かにあのとき社としては1円でも利益を上げたかった。しかし、あのサラリーマンほど余裕がなかったわけではない。
できることはもっとあった。
手のひらを開き100円玉を見た。
思わず自嘲気味の笑みがこぼれる。
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