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「専務、専務じゃありませんか」
不意だったが、樫田君の声だとすぐに気づく。
会社には辞めるとは伝えたが、事後処理どころか挨拶もしなかった。
樫田君から見ればほとんど失踪に近かっただろう。いや、誰から見ても失踪だ。
いずれにしても今さらどんな顔で会えというのか。
目の焦点を何にも合わせず意識を殺す。そうすれば無反応でいられる。
そういう技術は自然と身についていた。
無反応で通り過ぎる。
こんな格好だ、樫田君は人違いだと思うだろう。
どうやらついてきていない。
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