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ここは浮浪者にとって聖地のような場所らしい。 以前はここから100メートルほど離れた公園が周辺にいる浮浪者の主な寝床だったが、市民の苦情が多く強制撤去された。役人と浮浪者との間で怒号が飛び交った。その報道は全国ニュースでも流れ、私も記憶していた。 その後、その浮浪者たちがどうなったかを聞くこともなかったが、彼らはこの聖地に流れてきたのだろうか。それとも強制撤去以前からここは聖地として存在していたのだろうか。 聖地はJRの高架下の歩行者専用道路で屋根つきだ。野宿禁止の看板はあるが、駅の再開発の影響で通行者が減ったため、苦情も少なく今のところ自治体も黙認しているらしい。他の都合の悪い場所にでも移動されたら困るのだろう。 ただ、浮浪者のための一時宿泊施設ができれば、この聖地も強制撤去されると噂されている。それは一年後に完成する予定だ。 屋根がある、それだけでここは聖地と呼ばれていた。 聖地には勝手に入れない。各自のテリトリーが決まっているのだ。 しかし、私はこの聖地にすんなりと受け入れられた。酔っ払いのサラリーマンにからまれた聖地の住民を助けた。それをタカさんに見られていただけだ。もちろん空きが出たことが前提にある。 ここに入れない浮浪者は寝場所を転々としている。朝晩はまだ冷える。 私は浮浪者になっても運が良いらしい。
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